皮膚の役割
正常な皮膚は、皮膚の表面にある角層という部分とその表面の皮脂膜、角質の間にあるセラミドによって、皮膚の水分を保つ働きがあります。また体の外からの刺激が入ってこないようにする働きがあり、これを「皮膚のバリア機能」と呼びます。アトピー性皮膚炎とは、この皮膚バリア機能が低下し、体の外からの刺激が体の中に入ってきてしまう状態になっています。
皮膚のバリア機能が低下した結果、炎症が起きてしまい、かゆみや発疹などの症状があらわれます。特に小さなお子さんは皮膚のバリア機能が未熟であるため、皮膚の炎症がおこりやすくなっています。
アトピーの原因
アトピー性皮膚炎の発症メカニズムは十分には解明されていませんが、患者さんの年齢や体質、生活環境が大きく影響していると言われています。代表的な原因としては、ダニ、ハウスダスト、カビなどの環境アレルゲン、汗、ペットの毛やフケ、疲労、食事バランスなどいろいろです。またアトピー性皮膚炎の原因は一つだけというわけではなく、様々な要因が重なりあって起きることも多いのが特徴です。
また、アトピー性皮膚炎のお子さんはアトピー素因と言い、本人やご家族に気管支喘息やアレルギー性鼻炎および結膜炎などの既往歴を持っていることも多いです。
アトピー性皮膚炎を悪化させる要因
- 引っ搔くこと
- 引っ掻いてしまうことで、肌の表面に傷がつき、湿疹がひどくなったり血が出たりするためアトピー性皮膚炎を悪化させてしまいます。
- 発汗
- 汗をかくことで、かいた汗が肌への刺激となって、かゆみが強くなりアトピー性皮膚炎の悪化につながります。
- 高すぎる室温
- 室温が高すぎると、体の中に熱がこもりやすく、かゆみが増して患部をかきむしる原因になります。
- 空気の乾燥、逆に高い湿度
- 空気が乾燥する時は肌のバリア機能が低下することで刺激が加わりやすくなってしまい、かゆみの増加につながります。
高い湿度の時はかゆみの原因となるダニやカビなどが繁殖しやすい状況になり、肌に刺激が増える環境をつくってしまいます。 - ほこり、汚れ
- ほこりにダニやダニの死骸が含まれている可能性があり、肌が刺激を受けることでアトピー性皮膚炎を悪化させる要因になります。
- 衣類の刺激(ケバ立った繊維、かたい繊維)
- 服の繊維と肌がこすれることでかゆみを引き起こし、引っ掻いてしまうことでアトピー性皮膚炎を悪化させる原因になります。
- お風呂
- 長時間湯船につかると毛細血管が拡張されて血行の良くなる状態が長くなり、その結果としてかゆみが長く続く原因になります。
- 温泉(特にイオウ泉)
- 酸性泉やイオウ泉は刺激が強く、肌の乾燥を誘発するためアトピー性皮膚炎が悪化する原因になります。
- せっけん、洗剤、シャンプー、リンスなど
- 肌に対して刺激が強いものだと清潔にしているのにかえってかゆみが増すことになり、アトピー性皮膚炎の悪化につながります。
- 動物の毛、昆虫
- 動物の毛や昆虫が肌に触れることで刺激となりかゆみが出てしまい、アトピー性皮膚炎が悪化する原因になります。
- 植物、花粉
- 植物や花粉が肌に触れたり付着したりすることでかぶれなどが生じ、その部分を引っ掻くことでアトピー性皮膚炎の悪化につながります。
- 強い日光
- 強い日光が肌にあたることで、肌が熱を持つようになり、その結果かゆみが増して患部をかきむしることにつながります。
- 心理的緊張、ストレス
- 学校生活などの日常的なストレスでイライラすることでかゆみが強くなり、アトピー性皮膚炎の悪化につながります。
- 不適切な塗り薬の使用
- 身体や症状に合っていない不適切な塗り薬を使用することで、余計にかゆみや湿疹を誘発し、アトピー性皮膚炎を悪化させることになります。
- 食物(卵、牛乳、大豆、小麦など)
- 食物アレルギーはアトピー性皮膚炎と合併することが多く、食物アレルギーのある食べ物を口にすることでアトピー性皮膚炎の症状が強くなることがあります。
アトピーの症状
アトピー性皮膚炎の基本的な症状は湿疹です。皮膚が赤くなる・ぶつぶつができる・じくじくする・かさかさする・皮膚がぽろぽろはがれるなどで、どれも強いかゆみを伴います。
症状は体の左右で同じように現れることが多いのが特徴です。おでこ、目の周り、口の周り、首、手足の関節、胸や背中などを中心に現れます。このような症状が一時的なものではなく、長期間(ガイドラインでは乳児では2ヵ月以上、その他では6ヵ月以上)続く場合にアトピー性皮膚炎と診断されます。
また、年齢によって症状に特徴があり、一般的には乳幼児期(4歳まで)、小児期(思春期まで)、成人期(思春期以降)に分けられます。
- 乳幼児期
- 症状が顔や頭に現れやすく、かゆみの強い湿疹が生じ、細かいぶつぶつができて盛り上がったり、じくじくと液がしみ出してきたりします。
- 小児期
- 症状がひじの内側やひざの裏側などに現れるようになります。皮膚は乾燥してかさかさと皮がむけ、かゆみを伴います。耳切れもよくみられます。
- 成人期
- 広範囲にわたって顔面や上半身に治りにくい湿疹がみられ、皮膚の乾燥が強くなり、ごわごわと厚くなります。長期間湿疹が続くことで、色素沈着がみられることがあります。
アトピー性皮膚炎の重症度
アトピー性皮膚炎の重症度は皮疹の面積と炎症の強さで分類されます。
- 軽症:面積にかかわらず皮膚に軽度の赤みや乾燥だけが認められる状態です。
- 中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%未満に認められる状態です。
- 重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%以上で30%未満に認められる状態です。
- 最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に及ぶ状態です。皮疹は面積より個々の皮疹の重症度が重要視されます。
アトピー性皮膚炎の原因の除去
皮膚のうるおいは「皮脂」「角質細胞間脂質」「天然保湿因子」の3つの物質によって保たれています。これら3つの物質が皮膚のバリア機能をつくることで、食べ物やダニなどのアレルゲンが外側から体内に入り込まないようにして、内側から水分を逃げないようにしています。しかし、皮膚が乾燥していると皮膚の表面に隙間ができてしまい、そこからアレルゲンが侵入しやすくなることで外側からの刺激を受けやすくなります。また、内側からの水分が逃げやすくなり、その結果かゆみを感じる神経が皮膚の表面近くまで伸びてかゆみを感じやすくなります、また、皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。そのため、保湿やスキンケアで肌が乾燥状態になることを防ぎ、外部からのアレルゲンが体内に侵入しないようにすることが重要です。
アレルギーマーチ
アレルギーマーチとは、お子さんの成長に伴い、アレルギーの症状がアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎に代わっていく状況のことをいいます。アレルギーマーチを予防するには小さいころからしっかりと保湿などのスキンケアを行うことが重要です。そうすることで、皮膚のバリア機能を改善することができ、症状を抑えることにつながります。